日本建築学会による「保育施設の音環境」推奨値について

 2020年6 月、「学校施設の音環境保全規準・設計指針」 註 1 が 改訂されたことに伴い、日本建築学会から「保育施設の音環境」として保育室内の残響時間 についての「推奨値」が示されました。具体的な「推奨値」は 0.4 秒(保育室の床面積50㎡・高さ2.5メートル程度の広さの場合) と掲示されています。この規準が示している値は、これまで日本にはなかった「規準値」を示すものであり、ようやく保育を行う室内についての「残響時間(音の反響する時間)」の規準ができたということで、保育に関係する者にとっては画期的なことといえるのです。

 筆者は1980年から幼稚園教員養成に関わっていましたが、音楽の指導をする中で、教育実習を終えて授業に戻ってくる学生の多くがガラガラ声で、「声枯れ」、あるいは「音声障害」になっていることに気づきました。確かに、われわれ教員養成大学の教員も、実習させていただく幼稚園の保育室に朝からお昼過ぎまでいると、耳が痛くなってくることを思い出し、保育室内の音の大きさ・賑やかさがその原因なのではと思うようになりました。その後、いったいどのくらいの音量が保育室内に響いているのか?が知りたくなり、保育園などでも測定させていただきました。そして、出てきた数値にびっくりしたのです註2。しかし、その頃から今に至るまで、保育を支える環境について「音」の視点からの規準など、示されることはありませんでした。当時の幼稚園児たちは登園から降園までの4~5時間、保育園ではさらに長時間、その精巧な耳を音の洪水にさらしながら過ごしていたことになります。

 保育園、こども園、幼稚園の園長先生や理事長先生方の中には、海外、とくに欧米の保育園などを参観された方もいらっしゃることでしょう。例えば、レッジョエミリア(イタリア)やイギリス、また森の幼稚園で名高いスウェーデン、フィンランドなどの実情をご覧になられているかもしれません。こうした諸国のほとんどは、「保育室内」の「残響時間(音の反響する時間)」の値が決められていることはご存じでしょうか?筆者が9か月間滞在して室内の音を測定させてもらったスウェーデン註2では、国の規準通りに作られた室内の「残響時間」は0.6秒で、特殊な建物内の保育室以外は「国の規準」に基づいて作られていました。ちなみに、残響時間のほか、空気質や温度・湿度についても規準が細かく決められており、国中どこにあっても、子どもたちが過ごす室内環境が同じであること、あるべきことを目指す国の姿勢に驚き、感心させられました。

 そして昨年、日本にもようやく残響時間の規準ができました。そのことがいかに画期的であるかがおわかりいただけたと思います。ぜひ下記のリンク先からご確認ください。これらの規準が保育室の新設や改築に実際に使われ、保育者と子どもの声のやり取りが一層豊かになるよう願っています。                    (志村洋子)

註1)日本建築学会環境基準 AIJES-S0001-2020「学校施設の音環境保全 規準・設計指針」(2020)
註2)志村・藤井・井上 「幼稚園・保育所の保育室内の音環境1 -乳幼児の活動と音響特性-」 日本音響学会講演論文集 775-776(1996.3.)                                                            註3)藤井・志村 「幼稚園・保育所の保育室内の音環境8 -スエーデン・カナダの音環境の現状-」 日本音響学会講演論文集 689-690(2002.9.)


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